沖積平野-扇状地・氾濫原・三角州
2020/04/22
前回の授業では火山地形と自然災害について学習しました。
今日は中学校の地理の授業でも聞いたことがあるはずの扇状地や三角州について勉強します。
まずはじめにみなさんに聞きたいのは
扇状地って何?
ということ。
中学の頃に嫌というほど聞いた言葉だと思いますが,わかりやすく説明して,と言われたら,結局扇状地とは何なのか,どうやってできるのかなどについてわからないという人も多いのが事実です。
これだから知識暗記型の中学社会や高校入試はダメですね。
さて,扇状地とは上空から見たときに,扇形に見えることからその名前がついています。
扇状地には大きく分けて3つの地点が存在します。
上から順に,扇頂・扇央・扇端と呼ばれます。
これは覚えましょう。
どれも基本的な用語です。
漢字の「頂」「央」「端」という字のままの地点なので,そんなに難しくないですね。
扇頂・扇央・扇端の位置は扇状地を上空から見た次のモデル図で確認してください。
ここで質問です。
あなたなら,扇状地の扇頂,扇央,扇端のどこに住みたいですか。
また,その理由はなぜですか?

上空から見た扇状地
これは扇状地において集落が成立しやすい場所ということです。
ヒントは人間が生きていくために必要不可欠なものは何か?ということ。
みなさんはお金?それともスマホ?
答えはもちろん水ですね。
「人間の60%は水でできている」っていうスポーツドリンクのCMを一昔前にやっていたのを見たことないですか。
人間が生活を営む上で水へのアクセスの容易さは非常に重要です。
今でこそ,蛇口をひねればどこでも水が出てくる便利な世の中ですが,集落が成立した頃ですから,すぐに井戸から水が得られるとか,川から近いとかが,家を建てる上での優先事項です。
次の図は扇状地の断面図です。

扇状地の断面図
もう,どこに集落が立地しやすいかわかりましたね。
答えは扇端。その次に扇頂です。
今日学習する扇状地・氾濫原・三角州は教科書などで「河川が作る小地形」という小見出しがついていることも多い単元です。
つまり,扇状地・氾濫原・三角州は河川による侵食や土砂の運搬・堆積などの作用によって作られる地形ということです。
当たり前のようですが,これは非常に大切な考え方なので,心にとめておいてください。
つまり,扇状地の中には必ず河川が存在します。
この河川から水をもっとも得やすいところが扇端,その次に扇頂なのです。
次の断面図を見てください。

扇状地の土地利用
小学生のころ,理科(生活科?)の授業で,川の上流にはゴツゴツとした大きな石が多く,下流には粒の小さな丸みを帯びた石が河原に多い,ということをみんな学習したはずです。
扇状地も同様で,粒の大きな石(礫と呼ばれます)ほど重たいため,川の上流(扇頂付近)で止まり(堆積し),粒の小さな石(砂と呼ばれます)ほど軽いため,川の下流(扇端付近)まで運ばれて堆積します。
そのため,扇状地の断面図を見ると,堆積している土砂の粒の大きさが上流から下流にかけて小さくなっているのです。
扇頂付近は岩盤が存在し,地表に水流が見られる場合が多いものの,扇央付近は堆積物の粒子が大きく土砂の隙間が大きいため,その隙間をくぐり抜けて,水が地下にしみこみます。
この現象は水が地下に潜るため,伏流(ふくりゅう)と呼ばれ,地表には普段,水が流れていない水無川(みずなしがわ)が形成されます。
水無川の地下には伏流した水が流れており,大雨時には水無川にも水流がみられます。
伏流した水は扇端付近で再び湧き出すため,湧水と呼ばれます。
扇端付近には湧水するポイントが扇状に分布するため,扇端と湧水帯は一致することがほとんどです。
では,伏流した水はなぜ扇端で湧水するのでしょうか?
ポイントは,扇頂~扇央付近で土砂の隙間をくぐり抜けていた水が扇端で伏流しなくなるということです。
水を通さないほど粒の小さな堆積物のことを何というかわかりますか?
その通り,粘土です。
堆積物は大きなものから礫(れき:粒径2mm以上のもの),砂(粒径2~62.5㎛),粘土(粒径62.5㎛以下のもの)と呼ばれます。
粒の単位が小さすぎて想像もできませんが,例えば小画工の図工で使う紙粘土とか,陶芸で使う粘土って,当たり前ですけど,上から水をかけても通り抜けませんよね。
それくらい,粘土というのは粒子が小さいと思ってください。
そのほか,扇状地の土地利用で大切なのは耕地です。扇頂や扇端では水が得やすいため,主に水田として利用されます。
一方で,地下水位が深いために,井戸を深く掘らなければ水を得にくい扇央では畑や果樹園が広がります。
これは地形図で扇状地を読図するときにも頻出のポイントですので,しっかり理解しておきましょう。
さらに言えば,扇央付近なのに,住宅が立地している地形図が出てきた場合,その扇央に立地している住宅は比較的最近になって建てられたものだということが分かります。
水道などの水をポンプの圧力によって送っているため,地下水位の深さに集落の立地が左右されなくなった現代ならではというわけです。
もう一つ扇状地の地形図読図で出題されるのが,天井川です。
天井川とは河床面が周囲の平野面より高い川のことをいい,具体的には川と道路や線路が交差したときに,川のほうが上になっていることが多いです。

天井川の断面図
周りと比べて川のある位置が標高が高いため,等高線が下流に向けて凸になっていることを地形図から読み取る問題がよく出てきます。
以下のモデル図だけで,理解できましたか。

天井川が読み取れる等高線
なかなかわかりませんよね。
私も最初,「等高線が下流に凸になっているから天井川になっている」と書かれた参考書を見ても,全く理解できませんでした。
ということで,実際に段ボールを使って作ってみた天井川のモデル図が次の写真です。
扇状地の天井川を実際に作ってみた
「等高線が下流に凸になっているから天井川になっている」の意味,理解できましたか?
等高線が下流に凸になっているから天井川になっているということは,等高線に沿って車に乗っていると目の前に山が現れるようなものなので,道路は下流側にカーブして迂回します。
鉄道も同様ですが,鉄道はトンネルなどが掘られることもありますね。
教科書や資料集などでよく掲載されているのは滋賀県にある琵琶湖湖畔に位置する百瀬川の扇状地です。
グーグルマップで確認すると,川と道路が直行し,トンネルが通されて道路が下を通っているのが確認できます。
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次は氾濫原。
洪水によって作られる地形で具体的には河川の蛇行と三日月湖(河跡湖),自然堤防,後背湿地から構成されます。
以下の模式図を見てください。

氾濫原
まず,なぜ河川は蛇行するかわかりますか?
当たり前ですが,水は最も低いところを探すようにくねくねと曲がりながら流れていくからです。
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例えば,校庭にホースで水を流し始めたら,一直線に水が流れていくことはありえませんね。
本当にそうなったら超常現象です。
というわけで,河川は基本的に蛇行するもの,という認識を持っておいてください。
次に三日月湖。
三日月の形をした湖で,河跡湖とも呼ばれます。
文字通り,もともと蛇行していた河川の流路が変わり,湖として取り残されたものです。
が,しかし,みなさんは三日月湖を見たことがありますか?
正直chiriも間近で見たことはありません。
街中にこんな三日月湖がたくさんあると,道路を通したり,住宅を建てたりするうえでとてつもなく邪魔なので,現代ではなかなか見ることができません。
今も三日月湖がみられるのは例えば北海道とか,人がほとんど暮らしていないロシアのシベリア地方などです。
ちなみに次の写真は飛行機から撮影したシベリア上空の写真です。
とてつもなく河川がうねうね蛇行しているのがはっきりとわかりますね。
シベリア上空から見た蛇行する河川
次は自然堤防。
自然堤防とは文字通り,河川によって自然に作られる堤防(微高地)のことを指します。
河川は長い年月の中で氾濫(=洪水)を繰り返します。
河川が氾濫すると土砂が河川の外側にあふれ,洪水後に水が引いた後も,あふれた土砂は河川の両側に堆積します。
これを繰り返しているうちに,河川の両側には数十㎝~数mの微高地が形成されるのです。
かつての旧河道であった三日月湖の周囲にも自然堤防が残っていることがあります。
ちなみに自然堤防の「堤」という漢字を書き間違えないように,注意しましょう。
高校生のみんなはどうしても大好きな提出物のせいで「提」と書く人が試験でも続出します。
堤(つつみ)なので,つちへんです。
この自然堤防と三日月湖以外の土地が後背湿地と呼ばれます。
自然堤防とは逆に,標高が低いので,水はけが悪い土地が広がります。
ということは,みなさんが氾濫原の中に家を建てるとしたら,どこに建てますか?
そうです,当然ながら,自然堤防上ですね。
洪水の際にも水害を避けられるためです。
扇状地の時と同様に,土地利用はそれぞれの地域が何に使われやすいかわかりますか?
自然堤防上は畑,後背湿地は水田です。
水の得やすさや水はけのことを考えれば納得ですね。
地形図の問題では,この自然堤防を集落の立地や畑としての利用から読み取る問題が出題されることがあります。
自然堤防の標高差は地形図の計曲線や主曲線では読み取れない場合もあり,土地利用の知識が必要になるのです。
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最後は三角州。
英語では何というかわかりますか?
記号はコレです→⊿
そう,デルタですね。
ガンジスデルタ,ナイルデルタなどという使い方もします。
三角州には大きく分けて3つの形が存在します。
次のモデル図を見てください。

三角州の分類
センター試験で点数を取るだけなら,それぞれの三角州の形と具体例(90%以上,この例しか出ません)の組み合わせを覚えればばっちりです。
鳥趾状(ちょうしじょう)三角州がミシシッピ川(アメリカ)。
円弧上状(えんこじょう)三角州がナイル川(エジプト)。
カスプ状三角州がテヴェレ川(イタリア)。
ただし,中学校でも学習する三角州にこんなに形も全く異なるバリエーションがあるのは少し驚きじゃないですか。
円弧状三角州はある程度「The 三角州」って感じの形をしていますが,鳥趾状やカスプ状はこれが三角州なのかって感じですね。
ここからは覚えるというよりも「一度聞いておけば経験値になる」くらいのスタンスで聞いてください。
三角州の形を決めるのは主に土砂の堆積作用と波の侵食作用の相対的な強さの違いによるものです。
要するに,土砂は河川が上流から運んでくるわけで最も低平な河口部分で堆積し,陸地を作ろうとしています。
一方で波は,海水浴に行ってもあまり感じることはないかもしれませんが,常に地面を削ろうとしています。
つまり,新たに地面を作ろうとする力と,地面を削ろうとする力のどちらが強いかによって,三角州の形が変わってくるのです。
正確には潮汐作用なども影響していますが,これを含めるとわかりにくいので,今回は土砂の堆積作用から波の侵食作用を差し引いた,相対的な土砂の堆積作用で3つの三角州を考えたいと思います。
1つ目の鳥趾状三角州とは相対的に土砂の堆積作用が強い河川で見られます。
資料集などに載っている写真をよく見ると,砂が溜まったというよりも,川が海に向かって突き出ており,その川の両側にわずかに土砂が堆積して砂州を形成しているという感じです。
鳥趾とは鳥の足のことを意味します。
インコやタカの足の爪がこんな感じに枝分かれして湾曲していますね。
具体例もほぼミシシッピ川しか出てきませんが,世界地図にA~C地点がプロットされ,3種類の三角州のモデル図との組み合わせを答えさせるような問題で出題されることも多いので,ミシシッピ川の位置だけは地図帳で確認しておきましょう。
2つ目の円弧状三角州は一番三角州っぽいと感じるのではないでしょうか。
土砂の堆積作用はそこそこで,波の侵食力もそこまで強くないため,きれいな円弧を描きます。
ちなみにこのナイル川は上流にアスワンハイダムが建設されたために,毎年雨季に発生していた洪水が起こらなくなり,土砂の供給量が激減したため,逆に三角州が波によって侵食され,国土がどんどん小さくなっていることが近年有名になり,環境問題の単元でもまれに出題されるので,今回一度知っておけば大丈夫ですね。
3つ目のカスプ状三角州のカスプとは「先端」を意味します。
波による侵食(=海食)作用が強いと河川から運ばれてきた土砂は河口に堆積することができず,直線的な海岸線を作り出します。
ただし,河川の河口だけは最も土砂が溜まりやすいところなので,ちょこっとペン先が顔を出しているかのような形になるのです。
さて,三角州について見てきましたが,今後勉強する村落と都市の関連でいうと,三角州は非常に低平で水も得やすいところが多いため,人口密集地となり大きな都市が成立しやすいという条件を持っています。
例えば日本でいえば,広島市などは三角州の上に作られた100万都市として有名です。
一方で三角州は粒子の細かい砂や粘土が堆積しているために地層が弱く,地震が発生した際には液状化現象が起きやすいことも知っておきましょう。
そのため,地方中枢都市に指定されるような大きな都市でも地下鉄が通っていないのは広島市だけです。
博多も京都も大阪も,名古屋も東京も仙台も札幌も地下鉄が通っているのに広島市だけ地下鉄が存在していない理由の一つはこうした自然条件が関係しています。
(その代わりに広島には路面電車がたくさん走って活躍しています。)
ということで今日のまとめです。
河川が作る小地形
扇状地は扇頂・扇央・扇端からなる。
扇央で伏流した水は扇端で湧水する。
扇状地は天井川が多い。
集落と水田が立地しやすいのは扇頂と扇端。
扇央は畑や果樹園,新興住宅地。
氾濫原は三日月湖,自然堤防,後背湿地からなる。
家と畑は自然堤防,水田は後背湿地。
三角州は鳥跡状・円弧状・カスプ状の3つ。
次の授業では河岸段丘・洪積台地について学習します。
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