沈水海岸(リアス海岸,フィヨルド,エスチュアリー)
2020/04/22
さて,離水海岸が終わったところで,次に沈水海岸です。
沈水海岸はリアス海岸,フィヨルド,エスチュアリー(エスチュアリとも)の3つです。
リアス海岸は中学校の時に「リアス“式”海岸」って習った人も多いかもしれませんが,最近は“式”をつけないほうが一般的のようです。
まず初めにリアス海岸から。
中学校の地理で「リアス海岸」という言葉はほぼ100%覚えている生徒がほとんどなのに,「じゃあリアス海岸って何?」と訊くと,ほとんどの生徒が答えられない不思議な単語(笑)
こうした現状に出会う度に,地理が「暗記科目」として受け止められていることを悲しく思います…
ぜひ,この記事を読んでくださっている読者の皆さんは,こうしたイメージを払拭してくださいね。
では,そもそもリアス海岸はなぜリアス海岸っていうか知っていますか?
これは昔,「リアス“式”海岸」と呼んでいたことも関係しています。
実はリアス海岸の語源はスペイン北西部にあるリアスバハス海岸なのです。
ここの海岸がギザギザしてていわゆる鋸歯状(のこぎりの歯みたいな)だから,世界中のギザギザしてる沈水海岸をリアス海岸と呼ぶのです。
ちなみにリアスバハス海岸の位置は模試でも頻出なので,地図帳で要チェック!
リアス海岸を上空から見たモデル図にするとこんな感じ。
リアス海岸を上空から
2Dだとさっぱりわかりませんね。
沈水する前のV字谷
リアス海岸はV字谷(河川が作り出す谷の断面図はV字になるから。)が沈水して形成されるとよく説明されています。
要するに河川が地面を削って谷と尾根ができたところに,沈水すると下の図のような感じになります。
リアス海岸
少しはイメージできましたか?
これを上空から見ると陸地と海の部分が交互に入り組んでいてギザギザしてるでしょってことです。
賢い人はわかると思いますが,海側に出っ張っている陸地の部分が元の山の尾根,海水が内側に入り込んでいる部分が元の谷にあたります。
加えて重要なのは,出題される場所。
リアス海岸は急峻な山地が海に接しているところで成立するわけなので,日本でたくさん見られるのです。
以下は国内の代表例なので,必ず地図帳で確認しましょう。
地図帳で見ても,海岸線がギザギザしているのでよくわかると思います。
愛媛県宇和島,福井県若狭湾,三重県志摩半島,岩手県三陸海岸などなどです。
ちなみに下の写真は三重県志摩半島のリアス海岸。
三重県伊勢志摩半島のリアス海岸
一応尾根の部分が半島となって写真左に向けて何か所も突き出しており,入り組んだ海岸線を作っているのですが,なかなか上空から見ない限り,海岸線のギザギザ感は実感しにくいのが実際です。
もちろん海外にもありますが,模試で出題されるのは先ほど紹介したリアスバハス海岸と韓国南部くらいです。
リアス海岸は圧倒的に日本が頻出!というイメージで押さえておきましょう。
ちなみに,国内の代表例を見て,何か共通項に気が付きませんか?
それはリアス海岸の利用のされ方。
どの地域も養殖業が盛んなのです。
宇和島は鯛やブリ(エサにみかんの皮を与える取組が近年話題に),若狭湾はふぐ,志摩半島は真珠(真珠のミキモトという世界的な会社は三重県が創業地です),三陸海岸はウニやワカメ,カキなどが有名(東北大震災ではこれらの産業も大きな被害を受け,ニュースでもよく報道されていました。)です。
リアス海岸の海は山が海に沈んでいるため水深が深く,プランクトンが豊富で入り江の両側は尾根がせり出した斜面に挟まれているため波が静かで台風などの被害も受けにくいなど養殖に適した条件がすべてそろっているのです。
上の写真でも養殖いかだがたくさん浮かんでいます。
やはりこれも自然環境の特徴を巧みに利用してきた先人たちの知恵であり,自然環境と産業が密接に結びついた地理学の面白さの1つだと思います。
(一方で東北大震災の津波は入り江が奥に入るほどに狭まっているため,波の高さが増幅し,甚大な被害を出してしまったのですが…常に私たち人間の生活はそこにある自然環境と良くも悪くも表裏一体ということですね。)
さて,次はフィヨルドです。
フィヨルドは「氷食を受けたU字谷が沈水してできた奥深い入り江。大型の船舶が入港可能で天然の良港となる。」というような辞書的な説明がよくされます。
まず氷食ですが,これはもう少し後の氷河地形で勉強します。
地面を水が削ったら侵食,氷河が地面を削るから氷食です。
リアス海岸でも少し説明したように,水が地面を削ると谷はV字になりますが,氷河が地面を削ると谷はU字になります。
この理由はまた改めて氷河地形の単元で説明しますので,今回はとにかくもともとUの字の谷が存在している,と思ってください。
断面図で見ると次のような形です。

U字谷の沈水
もともと存在したU字谷が沈水して,(沈水する理由は河岸段丘のページを参照)水深の深い入り江となります。
V字谷が沈水したリアス海岸の断面の模式図と比べると水深が同じでも…

U字谷とV字谷の沈水
なぜフィヨルドが「天然の良港」と呼ばれるかの答えがわかりますか?
フィヨルドとリアス海岸に入る船
そうです,フィヨルドのほうが水深が深いのでリアス海岸よりも大きな船が港に入ることが可能だからですね。
船舶というのは海面上に見えている客室や貨物室(要するに船の上の部分)ばかりを大きくするわけにはいきません。
転覆を防ぐため,船体が大きくなればなるほど,海面下の部分も大きくなるのです。
そのため港の水深というのは,どのサイズの船まで着岸できるかというキャパシティと大きく関係しており,日本の港でも海底を掘り下げて土砂を取り除く工事を定期的にしているところも多くあります。
というわけで,もともと水深が深いフィヨルドは大型の船舶が入港しやすいという,持って生まれた強みを持っているのです。
さらにフィヨルドの強みは「奥深い」入り江です。
この「奥深い」の意味が分かっていないとセンター試験や模擬試験でリアス海岸とフィヨルドの衛星写真を出題されても判別ができません。
地理Bの模試で偏差値を上げるには過去問で演習あるのみ
先ほど,リアス海岸を上空から2Dで見たギザギザな模式図を示しましたが,これと比べるとすると,フィヨルドはこんな感じです。
奥深いフィヨルド
ただ,海に向かって河川が流れているようにしか見えませんか…?
PCで作図するスキルがこれくらいしかないので,想像力を働かせて読んでください(笑)
地理って世界中すべてを見て回れるわけではないので,「想像力」は非常に大切なんですけどね。
それはさておき,上の図が普通に河川が流れていると仮定すると,上流から下流に向けて河川の勾配(傾き)が急なわけなので,本来はA地点くらいまでしか船が遡れないのです。
外洋船であればむしろA地点までも遡れないけど…
しかし,上の図が河川ではなく,フィヨルドとして沈水したU字谷が内陸まで続いているとしたら…
河口からB地点までずっとU字谷が続いているわけなので,大きな船がずっと遡れてB地点まで到達できるわけです。
すると,普通,貿易港や貿易を中心として栄える都市というのは当然ながら沿岸部に成立・発展しやすいのですが,上の図からもわかるように,フィヨルドがある地域は内陸に貿易港として都市が発達できる条件を備えているのです。
もちろん,リアス海岸と同様に,内陸に入っていけばいくほど,U字谷に挟まれて風の影響も受けにくいため,いつも波が穏やかで,港としても使い勝手が良いわけです。
ということで,「奥深い」入り江の意味,わかっていただけましたか?
そしてもう一つ大切なのは,フィヨルドの分布。
具体的に言うと,ノルウェー西岸,アラスカ湾周辺,ニュージーランド南島,チリ南部など(このほか,氷河が作る地形なので,アイスランドやカナダの北極海周辺にもありますが出題されることはマイナーです。)です。
ちなみにフィヨルドは日本にはありません。
エスチュアリもないです。
あるのはリアス海岸だけ。
これはそれぞれが形成されるメカニズムに理由があるのですが…
当然ながら,もう地図帳を開いてチェックしてくれていると思いますが,フィヨルドの分布の傾向性に気が付きませんか?
そうです,フィヨルドの分布で大切なのは,
なぜフィヨルドは大陸の西岸に多いのか?
ということです。
この疑問はフィヨルドを作り出すU字谷,を作り出す氷河,に関係しています。
氷河って何?
と聞かれたら,みなさんはきちんと答えられますか?
「氷」!と答えようとしたそこのあなた,そんなことは小学生でもわかります。
どんな状態の氷のことを言って,その氷はどうやってできるのか,が重要です。
氷河とはわかりやすくいうと,降り積もった雪が積み重なって自分の雪の重さで圧縮され,氷の塊になったものです。
よくある間違いが,氷河は海の水が凍って固まったもの,という理解です。
たとえば,地球温暖化で南極大陸の氷河が融け,ものすごい音を立てながら海に割れて崩れていく映像をテレビなどで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
これを見ていると,氷河は海水が凍って氷河になっていると誤解する人が多くいます。
しかししかし,基本的に氷河というのは真水です。
塩分はそんなに入っていません。
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たとえば南極観測隊の人たちが毎日基地の周りの水を融かして自分たちの飲み水や生活用水を作っているって聞いたことないですか?
一生懸命融かした氷がしょっぱかったら意味ないですよね?
余談ですが,南極での生活の様子が面白おかしくわかるおすすめの映画が売れる前の堺雅人が主演している『南極料理人』です。
大笑いしながらとっても勉強になる映画ですので,受験勉強の息抜きにぜひ一度どうぞ。
話はさておき,氷河のでき方・状態についてイメージが湧きましたか?
冬に雪が降った日の朝,橋の上に積もった雪が歩行者や自転車に踏み固められてつるつるの氷(アイスバーン)状態になったのを見たことor経験したことがあるのではないでしょうか。
専門家の方からすれば全く違うと叱られるかもしれませんが,氷河はみんなに踏み固められた雪と同じように,自分の雪の重さで固められていく,と思ってね,とchiriは普段の授業で話しています。
氷河の厚さは南極で3,000mにも達するといわれています。
日本の立山でも8mくらいはあるそうです。
これぐらい雪が積もれば重みで氷になっていく,というのは理解してもらえるはずです。
さてさて,本題に戻ります。
なぜフィヨルドは大陸の西岸に多いのか?
つまり,
氷河は大陸の西岸に多いのか?
正確には,今,フィヨルドがある地域に氷河はない地域も多いので,
氷河は大陸の西岸に多かった(氷河期の時代に)のか?
ということです。(今は氷河期と氷河期の間の間氷期とよばれる少し暖かい時代です。)
ここでもう一度地図帳を見てみましょう。
確認すべき世界のフィヨルドの分布を「高さ」に着目して地図帳を見てください。
何の「高さ」か,わかりますか?
そう,「緯度」です。
ほとんど同じ高さ(緯度,いわゆる中緯度と呼ばれる地域)にフィヨルドが分布していますね。
この理由はというと…もう少し学習を進めると詳しく説明するのですが,答えは「偏西風」です。
中学校の社会科でもヨーロッパに偏西風が吹いて,東北とか北海道と同じくらい緯度が高いのに,冬は比較的温暖になる,みたいなこと,習いましたよね。
この偏西風が常に大陸の西岸にぶつかっているので大陸の風上(かざかみ)側で降水量(氷河期には降雪量)が多く,大量の雪が降り積もっていたので氷河が発達し,U字谷が作られていたのです。
気候で降水を勉強しないと,いまはそこまで感動がないかもしれませんが,学習した後にもう一度今回の授業の内容を読むと,「なるほど。」と思ってもらえるはずです。
授業を聞くにしても,受験参考書で独学するにしてもそうですが,なかなか1回聞いて,読んですべて完璧にマスターする,というのはできません。
2~3回繰り返し聞く・読むことで理解は深まるものです。
みなさんもぜひ,1回聞いて・読んで「わかった気」になるのではなく,繰り返しの復習を大切にしてくださいね。
さてさてさて,話がそれすぎました。
普段の学校でのchiriの授業も脱線が多いことがすぐにバレそうですね…(汗)
それでは最後にエスチュアリです。
エスチュアリは「三角江」とも呼ばれます。
「三角州」と定期テストで書き間違える人が多いので注意してくださいね。
大切なのは漢字の意味です。
「江」は入り江の「江」。
入り江とは海が陸側に食い込んだ部分のことなので,今学習しているリアス海岸もフィヨルドもエスチュアリも入り江の一種です。
一方で「州」とは砂がたまってできた陸地の部分のこと。
三角州についてはもう以前の授業で学習しましたね。
漢字一文字の違いとは言え,意味が分かっていればまったく異なる性質を持つ地形だとわかり,書き間違えることはないはずです。
何度も言いますが,漢字の暗記ではなく,中身の理解が大切ですね。
さて,エスチュアリはよく「ラッパ状の河口」という表現をされます。
上空から見たモデル図にするとこんな感じ。
エスチュアリ上空から
赤まるで囲んだ部分がラッパの先のように開いていますね。
参考書ではもっと大きく河口が開いているモデル図が載っている場合もありますが,地図帳を見てもらうと実際はそんなに開いておらず,河川の一番先の部分がかすかに開いているように見えるものがほとんどです。
具体的にはアルゼンチンのラプラタ川,カナダのセントローレンス川,イギリスのテムズ川,フランスのセーヌ川,ガロンヌ川,ロアール川,ドイツのエルベ川などなどです。
はい,地図帳でチェックしましたね。
さぁ,これもフィヨルドと同様に,分布地域がポイントです。
イギリス,フランス,ドイツを見るわかるように,エスチュアリはヨーロッパに多いのが特徴です。
これはヨーロッパ全体が持つ地形の特徴が関係しています。
2回目の授業(地体構造-新期・古期造山帯,安定陸塊(楯状地・卓状地))で学習した内容を覚えていますか?
ヨーロッパは平均高度が大陸別で見たときに最も低く,200m未満の土地が50%を超えるんでしたね。
つまり,一番平らな地域であることが,エスチュアリの成立に大きくかかわっています。
そもそも,エスチュアリも沈水海岸なので,リアス海岸やフィヨルドのように沈む前の地形があるはずですね。
現在のラッパ状の河口を見て,沈む前はどんな形だったか想像できますか?
エスチュアリが沈水する前は以下のような形です。

エスチュアリ 沈水前
エスチュアリの元となる地形は河川の土砂堆積量が少ないという特徴を持っています。
三角州の単元でも学習した通り,日本の河川は土砂の堆積量が多いために,河口には三角州が形成されます。
土砂の堆積量が少ないということはヨーロッパの河川は日本の河川と一般的にどのような違いを持っているかわかりますか?
そうです,日本の河川は川の傾き(河川勾配)が急なのに対して,ヨーロッパの河川は河川勾配が緩やかなのです。
もちろん理由は日本が新期造山帯に属し,河川上流の標高が高い(川の流れ始める位置が高い)のに対し,ヨーロッパは古期造山帯や安定陸塊に属する地域が多く,いわゆる平らな川が多いからですね。
中学校の理科で学習したと思いますが,流れ始めの位置が高いということは位置エネルギーが大きくなるということです。
位置エネルギーが大きくなるということは水の流速が早くなるということです。
もし日本の河川とヨーロッパの河川周辺に降る雨の量が同じだったとしても,(当然ながら,実際に降水量が多いのは多くの場合,日本です。)流速が早いほうが河床(河川の底)を削る力が大きくなり,結果的に土砂が河口へ大量に流れていきます。
土砂がたくさん河口にたまるから,日本には三角州がたくさんあり,逆を言えば,上のようなモデル図の河川は日本ではなかなか作られないために,日本にはそれらしいエスチュアリが存在しないのです。
そんな条件を満たした地形が沈水すると以下のようになります。

エスチュアリ 沈水後
上空から見るとラッパ状になるのもわかると思います。
エスチュアリのでき方,理解してもらえましたか?
そしてもう一つ,リアス海岸やフィヨルドとの大きな特徴の違いが存在します。
それは河口付近が平ら,ということ。
また,村落と都市の単元で学習しますが,人間は基本的に平らなところに暮らします。
建物も建てやすく,人口も増えやすいのです。
そのため,エスチュアリの「後背地には大都市が成立しやすい」といった説明がよくなされます。
後背地は,後背湿地という言葉も氾濫原で出てきましたが,「後ろ側」くらいのイメージでよいです。
先ほどの例を挙げると,ラプラタ川はブエノスアイレス,セントローレンス川はモントリオール,テムズ川はロンドン,エルベ川はハンブルクなどです。
いずれも各国の首都や主要な大都市が成立していますね。
最後にもう一つ,エスチュアリが多いヨーロッパの河川で例外的に三角州(デルタ)が発達している河川があります。
ヒントは下のヨーロッパの地図。
この山脈は…
わかりますか?
怪しげにアルプス山脈だけ描いてありますね。
そう,新期造山帯であるアルプス山脈を源流に持つヨーロッパの河川はライン川です。
ライン川とドナウ川
ライン川だけは,河川勾配が大きいために,河口には三角州が発達しています。
これは過去のセンター試験でも出題されている内容なので,要チェックです。
(ちなみにブルガリアとルーマニアの自然的国境としてもよく出題されるドナウ川も河口は三角州が発達しています。2つの河川とも地図帳で見ると,河口で河川が枝分かれし,デルタを形成していることがよくわかるので,確認しておきましょう。)
さて,今日のポイントは
リアス海岸…V字谷が沈水し,鋸歯(ギザギザ)状の海岸線
→日本に多く,海岸はスペインと韓国!
フィヨルド…U字谷が沈水し,天然の良港
→偏西風の吹く中緯度の大陸西岸に分布
エスチュアリ…土砂堆積量の少ない河川が沈水し,ラッパ状の河口
→ヨーロッパに多く,後背地には大都市が成立
さて,次はサンゴ礁地形について学習します。
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