気候の3要素ー風
2020/04/22
さて,前回の授業では気候の3要素である降水について学習しました。
今回は3要素の最後である風について学習します。
まず,前回の授業でも少し触れましたが,風はそもそもどうやって吹くんだったか覚えていますか?
そうです,高気圧から低気圧へと空気が移動することによって風が吹きます。
これは一番重要な基本的理解なので,しっかりメカニズムを理解しておいてくださいね。
まず,この時間では大きく分けて4つの風を学習します。
恒常風,季節風,局地風(地方風),熱帯低気圧の4つです。
まず,この図を見てください。

大気大循環図と地球の自転
これは大気大循環図といいます。
この図は地理Bの1年間の授業の中で最も大事といっても過言ではない図だとchiriは毎年伝えています。
この図の中身,各項目の名称,そしてメカニズムをすべて理解し,覚えておく必要があります。
1つ1つ詳しく確認するのでついてきてくださいね。
まず,気圧帯についてです。
A~Dまで4つの気圧帯が存在しています。
気圧帯というのは文字通り気圧の帯(おび)です。
気圧が高い帯や低い帯が地球上には大きく分けて4つある,ということです。
まずはじめにAの赤道低圧帯についてです。
前回の降水の授業で確認しましたが,赤道付近というのは地球上で最も太陽によって暖められている結果気温の高い地域なので,毎日太陽からの熱射によって地面が暖められています。
すると上昇気流が発生しているわけで,空気が地面を下向きに押そうとする圧力と逆向きの上向きの力が働いています。
この結果周りと比べて気圧が低い低気圧の地域が赤道に沿って帯状に発達します。
これが赤道低圧帯です。
次にBの亜熱帯高圧帯について。
中緯度高圧帯とも呼ばれます。
どちらも同じくらいよく使われるので,どちらが出てきても同じものだと認識できるようにしておきましょう。
さて,赤道低圧帯では空気が上昇していると述べました。
しかし,暖められて上空に上っていった空気もいつかは冷やされ,今度は下に落ちてきます。
いつかは下に落ちてこないと地球上から空気がなくなっちゃいますからね。
この空気が落ちてくるエリアが赤道低圧帯の外側なのです。
大気大循環図でも右側に手書きの青い矢印を描いています。
これは空気が落ちてきていることを意味します。
そもそも気圧(空気が地面を下向きに押している圧力)が存在しているところに,さらに赤道低圧帯から出てきた上昇気流が下降気流となって上から落ちてくるわけなので,さらに下向きに押す力が強くなります。
そのため周りより高気圧の帯が発達して亜熱帯高圧帯を形成するのです。
さて,次に考えるのが北極・南極付近に存在するDの極高圧部。
極高圧帯と表記されることもありますが,実際の地球は球体なので,Dの部分は帯ではなくて蓋のような形になっているのはわかりますね。
なので一応,極高圧「部」と呼ぶことの方が多いようです。
それはともかく,赤道が地球上で最も暖められる場所ならば,極地方は当然ながら最も太陽エネルギーが届きにくく,暖められにくい場所ですよね。
暖められにくいのだから上昇気流は発生するわけはなく,下降気流が発達しており,極地域は“高圧”地域になるわけです。
すると残ったのはCの亜寒帯(高緯度)低圧帯。
すでに確認した亜熱帯高圧帯も極高圧部も下降気流が発達しているということはもう1つ間に上昇気流が発達している低圧帯がないとおかしいわけです。
だから気圧帯は赤道から極地方に向かって低→高→低→高と発達しています。
これを覚えておくだけでも,書き間違いや勘違いが少なくなると思いますよ。
さて,次はこの気圧帯の間を吹く風について。
恒常風という風です。
この気圧帯は1年中365日必ず4つ存在しています。
そうすると,最初に述べたように,風は高気圧から低気圧へ吹くので,常に高圧帯から低圧帯へ風が吹いていることになります。
「恒」も「常」も訓読みで「つね」と読みますね。
1年中同じ地域で同じ向きに吹いているから恒常風です。
ただし,高圧帯から低圧帯へ風が吹くだけならば,風向きの矢印はすべて上向きか下向きになるはずですが,上の図でもそうなっていませんよね。
ここがポイントです。
まずわかりやすいのは貿易風です。
これも中学校で習うと思いますが,貿易風と季節風の違いが説明できる人は少ないはずです。
貿易風は亜熱帯高圧帯から赤道低圧帯に向けて吹くのですが,例えば北半球で考えると,本来なら下向きの矢印になるはずです。
ただし,地球が自転しているために風の吹き始めと吹き終わりは一直線の下向きにならず,“見かけ上”風が西へ吹いているように見えるのです。
もっとわかりやすく言えば貿易風の矢印が振り子のようになっていると想像して(振り子の支点になっているのは矢印の始点側です),地球が左から右へと自転すると矢印の先は左側に振られますよね?
これが貿易風がまっすぐの北風ではなく,北東風になる理由です。
わかっていただけましたか…?(汗)
ちなみに風の名前についている方角は「風の吹いてくる方角」になっています。
北東から吹いてくるから北東貿易風です。
南半球なら南東から吹いてくるから南東貿易風です。
北風小僧の寒太郎は北から吹いてきてるんですよ。
さて,極高圧帯から亜寒帯低圧帯(高緯度低圧帯)に向かって吹いている極偏東風(極東風とも偏東風とも呼ばれます。要は東から吹いてくるってこと。)も貿易風と同様のメカニズムで矢印の向きが変わります。
大丈夫かな?
問題は偏西風です。
先に言っておきますが,今から説明する内容は理解できなかったら諦めて偏西風の向きだけ丸暗記してください。
chiriも毎年授業や補習で説明しますが,一定数の生徒たちは理解できません(笑)
ではいきますよ。
偏西風は北半球・南半球ともに「偏西風」という呼び方をします。
ただ,大気大循環図を見ると,地球が自転しているなら偏西風も東からの風になりそうだと思いませんか?
しかし,実際にはそうではありません。
なぜなのか?
それは偏西風の吹き始めよりも吹き終わりの方が地球の円周が短い,ということがポイントです。
先に確認した貿易風と極偏東風は吹き始めよりも吹き終わりの方が地球の円周が長いため,自転と合わせて考えると,風が(矢印の先が)左へ曲がっているように見えます。
しかし,偏西風だけは低緯度から高緯度地域へ向けて吹く風なので,風が右へ曲がっているように見えるのです。
さて,わかった?(笑)
ちなみに偏西風のうち,高度の高い地域を吹く西風をジェット気流と呼んでいます。
知っておきましょう。
日本からハワイに行くときは,行きがジェット気流の追い風になるので,帰りよりも2時間くらい飛行時間が短くなります。
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では,次に季節風についてです。
季節風とは季節によって風向きが変わる風のことです。
降水の単元でも日本周辺の季節風の風向きについて少し触れましたね。
中学校でも習うと思いますが,季節風はモンスーンとも呼ばれ,いわゆるモンスーンアジアで広く吹く風です。
具体的には日本・韓国・中国などがある東アジア,インドネシアやタイなどの東南アジア,インドやバングラデシュなどがある南アジアにかけての地域です。
ちなみに「○○アジア」という言葉が出てきたら,具体的にどんな国が含まれるのか,についてある程度思い出せるようにしておきましょうね。
このモンスーンアジアにおける季節風の風向きは皆さんが持っている資料集などにも必ず載っていると思うので,確認してください。
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この図を見て,ある傾向に気が付きませんか?
そうです,若干の方角の違いこそあれ,
季節風は夏に海から陸へ,冬に陸から海へと吹いている
のです。
ことばを言い換えれば,
季節風は海と陸がないと吹かない
ということなのです。
この言葉の意味を理解できるでしょうか。
このメカニズムの理解は非常に大切なので,次の説明を読んでしっかり確認してください。
まず,次の図を見てください。

季節風のメカニズム 夏
夏は海と陸を比べると気温を学習したときにも触れましたが,比熱の違いがあるため,陸は温まりやすく,海は温まりにくい性質を持っています。
そのため,陸地から多くの水蒸気が蒸発し,上昇気流が生まれるのに対して,海からはそんなに上昇気流が生まれません。
すると空気が地面を押す圧力である気圧が下向きにかかっている状態から,陸で反対の上向きに働く矢印が大きくなるので,結果的に陸側は低気圧になります。
そうすると海の部分は高気圧です。
風は高気圧から低気圧へ吹くので,海から陸へ風が吹きますね。
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季節風のメカニズム 冬
冬は陸が冷めやすく,海は冷めにくいので(大陸側はカチカチに凍っていても,海は凍っていない状態を想像してください。),相対的に海からのほうが水蒸気の供給が多くなり,上昇気流が発達しています。
すると今度は海側が低気圧,陸側が高気圧になり,陸から海へと風が吹くのです。
このように,夏と冬で風向きが逆転する理由は,夏と冬で低気圧と高気圧が逆転するからであり,それは陸と海の比熱の違いによるものなのです。
なかなか,このへん面白いと思いませんか?
だから先ほど言った,「季節風は海と陸がないと吹かない」という言葉の意味を今なら理解できますか?
当然ながらロシアの中とか,陸から陸へは比熱の違いが生まれないので,季節風は吹かないのです。
そうすると,ヨーロッパやアメリカに季節風は吹かないの?と感じる人もいるかもしれません。
厳密にいえばこれらの地域にも季節風が吹くこともあるのですが,偏西風などほかの風の影響が強く,高校の地理では季節風が出題されることはほぼありません。
そのため,季節風=モンスーンアジアで吹いている,という認識でOKなのです。
ちなみに補足ですが,上の季節風のメカニズムのモデル図は夏を昼,冬を夜に置き換えることで,海風,陸風のメカニズムとしてとらえることも可能です。
海沿いに暮らしている人はわかるかもしれませんが,沿岸部では時間帯によって風向きが変わります。
海から吹いてくるのが海風,陸から海へ吹くのが陸風です。
瀬戸内地域は特に有名で,夕方ごろ,この海風と陸風の風向きが逆転する瞬間は風が止みます。
これを「凪(なぎ)」と呼びますね。
少し前には広島を舞台にしてこんな映画もありました。
この原作は最近,「この世界の片隅に」でヒットしているこうの史代さんです。
やはりこれも,海と陸の比熱の違いによるものです。
さて,3つ目の局地風(地方風)に入ります。
これは世界の中である地方に局地的に吹く風のことをいいます。
みなさんが持っている資料集にも同じような図が載っていると思いますが,地理の入試で出題される風は限られています。
下の地図を見てください。

局地風(地方風)
局地風は風の名前・風向き・冷たい風か,暑い風かをセットにして全部で6つだけ覚えてください。
ちなみに風向きを覚えてしまえば冷たい風か,暑い風かは覚える必要はありません。
なぜだかわかりますか?
低緯度から高緯度に吹く風は暑い風(赤い矢印),高緯度から低緯度へ吹く風(青い矢印)は冷たい風になりからです。
では1つ1つ確認しますね。
① フェーン…アルプスの北側に吹く,南からの高温で乾燥した強風
② シロッコ…サハラ砂漠から南ヨーロッパに吹きつける砂塵を伴う熱風
③ ボラ…アドリア海に吹きおろす,乾燥した寒風
④ ミストラル・・・フランスのローヌ河谷沿いに,地中海に向かって吹く寒風
⑤ ハルマッタン・・・サハラ砂漠からギニア湾に向けて冬に吹く乾燥して砂塵を伴う風
⑥ ブリザード ・・・冬に北アメリカなどを襲う,雪を伴う暴風
センター試験や模擬試験で特によく出題されるのは,フェーン,シロッコ,ボラ,ブリザードです。
ボラが吹くアドリア海はジブリの紅の豚の舞台になったところです。
ブリザードは地図に載せていませんが,言葉は聞いたことありますね。
ここで1番大事なのはフェーンです。
みなさん,日本で過去最高気温を記録した都市はどこか知っていますか?
沖縄とかじゃないですよ。
最近高知県とか埼玉県,岐阜県に抜かれるまで1位だったのは山形市です。
東北で?と意外に思うかもしれません。
その理由がフェーン現象です。
ニュースなどでも言葉は聞いたことがあるかもしれません。
気温の授業で,気温の逓減率について学習しましたね。
普通の状態であれば,標高が100m上がると気温が0.65℃下がる,というものです。
これは逆で考えれば,標高が100m下がると気温が0.65℃上がる,ってことですよね。
しかし,これが風が乾燥していると変わってきます。
乾燥している風だと標高が100m下がると気温が約1℃上がるんです。
さて,演習問題です。
以下の図を見てください。

フェーン現象
A地点が標高0mとして,このときの気温が20℃だとします。
B地点は標高3,000mだとしたら,山頂の気温は何℃ですか?
そうです,-0.65℃×30=-19.5℃なので,山頂は0.5℃です。
さて,それでは山を越えた風はC地点で気温が何℃になっているでしょうか?
本来なら,気温の逓減率だけで考えると,20℃に戻るはずですが,この風は山の風上側で雨を降らしており,風下では乾いた空気となっているため,1℃×30=30℃気温が上がり,C地点では30.5℃になります。
山の手前では10℃だった風が29.5℃になるんです。
暑いよね。
これがフェーン現象。
山形市も夏に奥羽山脈を越えてきた風によってフェーン現象が起こり,過去最高気温を記録していたのです。
本家本元のフェーンはアルプス山脈で同じことが起こっています。
イタリアで起こるのは局地風のフェーン,同じメカニズムが世界各地で起きることをフェーン現象と呼ぶということです。
しっかり理解してもらえたかな?
それでは最後に,熱帯低気圧を確認しましょう。
熱帯低気圧は風向きというよりも熱帯低気圧そのものの動きが大切です。
ちなみに,この熱帯低気圧は世界の地域によって呼び方が違います。
次の地図を見てください。

熱帯低気圧
日本周辺を台風,インド洋やオーストラリア周辺で発達するものをサイクロン,カリブ海で発生し,アメリカ周辺に到達するものをハリケーンと呼んでいます。
アメリカで大型のハリケーンが発達すると,カトリーナとか人のような名前がついてニュースで報道されています。
この場所ごとに呼び方が違うというのがポイントです。
とくにハリケーンとサイクロンを逆にしてひっかけ問題がセンター試験や模擬試験でもよく出題されます。
一度覚えてしまえば難しくないと思うので,しっかりと得点できるようにしましょう。
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あと,それぞれの熱帯低気圧の進路が大切です。
台風はフィリピン海のほうからだいたい,このルートで日本付近に入ってくる,というイメージは幼い頃から日本で生まれ育ち,ニュースで幾度となく台風進路予測の図を見たことがあるはずなので,感覚的にわかると思います。
カーブの描き方はサイクロンもハリケーンも同じです。
サイクロンはバングラデシュ周辺へ,ハリケーンはカリブ海からメキシコ湾周辺へと入っていくのがセオリーです。
サイクロンは南半球にもあって,オーストラリアへ直撃するものもあるので,確認しておきましょう。
ちなみに台風はどっち回りか知っていますか?
台風は左回りです。
サイクロンもハリケーンも左回り。
南半球のサイクロンは右回りです。
これは地球の自転の力が関係しています。
熱帯低気圧がどっち回りかは入試には出ませんが,熱帯低気圧は赤道付近の緯度5度以内では発生しない,という内容はときどき見かけます。
意味わかりますか?
赤道付近が一番海水が暖められて,上昇気流が発達するために,超低気圧になっていくわけですが,これが回り始めて移動し始めると熱帯低気圧になります。
しかし,赤道の真上では熱帯低気圧は回り始めないのです。
なぜなら,遠心力しか働かないから。
難しいよね。
地球は球体なので,回転する球面上にはコリオリの力というものが働き,緯度5度以上の地域で初めて熱帯低気圧が回り始めます。
wikipediaで「コリオリの力」を検索すると,モデル図が出てきます。
見てもらうとわかるような,わからないような感覚になると思いますが,どうしても気になる人は学校の物理の先生に質問するのがいいかもしれませんね。
謎解き・海洋と大気の物理 地球規模でおきる「流れ」のしくみ (ブルーバックス) [ 保坂直紀 ]
さて,内容盛りだくさんでしたが,今日のポイントです。
恒常風…地球規模で1年中同じ向きに吹く風
→貿易風・偏西風・極偏東風
4つの気圧帯の間で…赤道低圧帯・亜熱帯高圧帯・亜寒帯低圧帯・極高圧部
季節風…夏と冬で風向きが逆転する風
→夏は海から陸へ,冬は陸から海へ
→東アジア,東南アジア,南アジアのモンスーン地域で卓越
局地風(地方風)…特定の地域・季節に吹く風
→フェーン・シロッコ・ボラ・ブリザードなど
熱帯低気圧…赤道付近の暖かい海水域(南北緯5度以上)で発生
→台風・サイクロン・ハリケーン
次の授業では海流について学習します。
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